有機質の家、無機質の家

以前話した「ウルの住宅」を覚えていますか? 3800年程昔の日干レンガづくりの家です。日干レンガというのは、泥を型に入れ、天日で乾かし固めたものです。火力によって焼いていないため強度はありませんが、もっとも入手しやすい建築材料で、雨の少ない中近東の貧しい地方では、いまだにこの方法で家がつくられています。(強度がないため、地震などで崩れて大きな被害を出すことになります。日本で現在一般的に見られるレンガは、焼成(ショウセイ)レンガといい、このようなことはありません。
強度の問題はおいといて...結局のところ「ウルの住宅」では、土に囲まれて生活していたわけです。そのことは、現代のコンクリート住宅も同じようなことが言えるかもしれません。コンクリートは、石を石灰で固めたもので、石灰も石を砕いて入手しているわけですから、石に囲まれた住宅というわけです。
どちらも無機質というわけです。
一方の日本の住宅は、草や木や紙といった有機質で囲まれた住宅と言えるような気がします。土壁も、わらを入れたりすることで有機化をはかっています。
人間は素材の違いによって、心理的な温度感覚が異なってきます。一般的には、熱伝導率(熱の伝えやすさ)の高い素材ほど、冷たく感じるようです。鉄・アルミといった金属類を一番冷たく感じ、次に石・コンクリート・ガラスといった無機質系の素材がきます。有機質系の素材は一番暖かく感じます。
こういったことから、人間が「やすらぎ」を感じる素材は、有機質系の素材となります。座ったり、寝転がったりする場所の素材は、有機質にしておかないと、本当の意味での休息にはならないのです。
したがって、無機質に囲まれた西洋式の住居では、建物と人間のインターフェイスとして、家具やインテリアが発達してきたものと考えられます。ベッドにしてもソファーにしても、無機質空間の中で、「やすらぎ」を得るためには、不可欠な物だったでしょう...。
一方、このような背景を持たない日本での、家具やインテリアに対する感覚は、歴史の浅いものになっていると考えられます。
逆に、日本のように有機質で囲まれた空間の中で、「やすらぎ」よりも「作業性」を優先させるには、別の意味での工夫が必要となったと考えられます。
私は、それもやはり家具やインテリアだったのではないかと考えています。つまり、西洋においては、建物を人間に近付けるために家具やインテリアが成立し、日本では、建物を人間から遠ざけるために家具やインテリアを導入したのではないか...と、いうことです...。
このことに関しては、また、別の視点から考えてみる必要がありそうですね。
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